鉄道事業者にとって、鉄道車両の内装および外装のリニューアル工事は、新車との車内設備格差の改善や、世間が求める鉄道サービスを提供するために必要です。
またリニューアル工事により、既存の鉄道車両をより長く運用することは、持続可能な開発目標”SDGs”に繋がる地球のためにも大切な取り組みです。
本記事では、JR西日本グループで鉄道車両に関する業務を担うJR西日本テクノスが施工した普通列車および観光列車のリニューアル工事の事例を紹介します。
※本記事はJR西日本テクノスが監修しています。
目次
1.鉄道事業者が内装・外装リニューアル工事に取り組む意義
リニューアル工事には、鉄道事業者によって、リフレッシュ工事、リノベーション工事、大型改造工事、などさまざまな言い方がありますが、本記事ではリニューアル工事に統一します。
鉄道事業者が、内装および外装のリニューアル工事に取り組む理由は、新車導入と比較して低価格で車内・車外設備のレベルアップを図れるためです。
車内設備のレベルアップは、座席(シート)改造、車イス対応、客室照明LED化などを実施し、新車並みの車内設備を備えた鉄道車両を提供します。
車外設備のレベルアップは、車両の見た目が美しくなることで、鉄道事業者のブランドを強調する広告塔としての価値を提供します。
その結果、鉄道事業者は新車導入のサイクルを長くすることができ、新車投入コストの抑制を図ることができます。
さらに普通列車と観光列車には、それぞれ異なるニーズと要求を満たすように展開されています。
普通列車は、既存車両の車内設備を新車と同程度の水準まで、レベルアップする必要があります。
一方で、観光列車は、JR西日本の「WEST EXPRESS 銀河」やあいの風とやま鉄道の「一万三千尺物語」などのように、特別な空間を演出する必要があります。
2.【グループ内】普通列車の体質改善工事
当社は、普通列車の体質改善工事(大幅なリニューアル工事)に力を入れています。体質改善工事の目的は、既存の鉄道車両の車内設備を、新車と同等の水準までレベルアップすることです。
工事事例には、座席(シート)改造による快適性向上、車イス対応によるバリアフリー化や客室照明のLED化などがあります。
これらの取り組みにより、普通列車をご利用いただくお客様は快適に移動できます。また、移動に支障のある方にとってはバリアフリーな環境になり、今まで以上に快適に移動できます。
体質改善工事は、JR西日本の207系、221系、223系、113系、115系などで実施しています。
(1)≪快適性≫座席(シート)改造
座席(シート)の改造は、お客様の快適な移動を提供できる要素の一つです。
新たに設計された座席(シート)は、従来の座席(シート)よりも座り心地を良くし、長時間の移動でも疲れにくくなります。
また、座席(シート)のクッション性や背もたれの角度など、鉄道事業者のニーズに合わせたカスタマイズが可能です。
(2)≪バリアフリー≫車イス対応
体質改善工事では、車内の一部エリアを車イススペース化する工事やドアレールの段差を解消する工事などの、車イス対応を行っています。
特に、車イススペース化する工事は、移動等円滑化整備ガイドラインで推奨される車内のバリアフリー化を推進しています。
また、前述したドアレールの段差解消工事ですが、車イスの車輪が通過する部分だけ、ドアレールをなくすことで、車イスをご利用のお客様に、車イススペースへのスムーズなアクセスを提供します。
これらは、共生社会構築の一環としての鉄道サービスの向上にも寄与します。
車イススペースについての製品説明については「車両改造工事」の製品紹介記事でも解説しています。
(3)≪省エネ≫客室照明のLED化
客室照明を蛍光灯からLEDに交換することには以下のようなメリットがあります。
- エネルギー効率が高いため、結果的に消費電力が低い
- LEDは構造的に長寿命であり、交換頻度が低い
LEDの改造工事については「LED式客室照明」の製品紹介記事でも解説しています。
3.【グループ外】普通列車の先頭車リニューアル工事
(1)100系《近江鉄道》
当社は、鉄道車両リニューアル工事で培った技術力を、他の鉄道事業者にも提供しています。その実例として、近江鉄道で実施した先頭車リニューアル工事を紹介します。
リニューアル工事の概要
近江鉄道100系の鉄道車両リニューアル工事は、西武鉄道の鉄道車両をベースに行われました。
この工事では、近江鉄道の要望で、元々4両1編成で譲り受けた西武鉄道の車両を先頭車の運転台を中間車に付け替えることで、2両1編成にするリニューアル工事を行いました。
リニューアル工事前後の鉄道車両
リニューアル工事前の外装は黄色で、4両1編成でした。
内装は、運賃箱などがなく、ワンマン運転に対応していない鉄道車両でした。
運転台を先頭車から切り離す作業です。
切り離した運転台を、中間車に取り付けます。
リニューアル工事後は、外装が青くなり、より爽やかな見た目になりました。
また、リニューアル工事後の鉄道車両の内装は、ワンマン運転に対応した機器や車イススペース化、手すりの増設など、近江鉄道からの要望に応えた鉄道車両リニューアル工事を実施しました。
(2)3000系《山陽電気鉄道》
山陽電気鉄道3000系の鉄道車両リニューアル工事も実施しました。
山陽電気鉄道3000系の鉄道車両リニューアル工事については、「【すべて見せます】山陽電気鉄道3000系リニューアル工事」の記事で詳細に解説しています。
4.【グループ内】観光列車の鉄道車両リニューアル工事
(1)WEST EXPRESS 銀河
WEST EXPRESS 銀河は、かつて京阪神地区の新快速などに使用された117系1編成にリニューアル工事を行い、気軽に鉄道の旅を楽しめる「新たな長距離列車」として開発されました。
- 多様性
- くつろぎ
- カジュアル
という3つのコンセプトで構成されたデザインとなっています。
リニューアル工事前
上記の画像が、リニューアル工事前の外装です。
上記の画像が、リニューアル工事前の内装です。
リニューアル工事後
上記の画像が、リニューアル工事後の外装です。
上記の画像が、リニューアル工事後の内装です。
このWEST EXPRESS 銀河は設計開発、リニューアル工事、メンテナンスのすべてに当社が関わっています。
WEST EXPRESS 銀河については、これらの座席などを家具として利用できる商品も「WEST EXPRESS 銀河 オマージュ家具」の記事で紹介しています。
(2)etSETOra(エトセトラ)
2020年にJR西日本が展開した「せとうち広島デスティネーションキャンペーン」に合わせて、「瀬戸内マリンビュー」として使用されていたキハ47系気動車をリニューアル工事し、誕生したのが観光列車「etSETOra(エトセトラ)」です。
リニューアル工事前
上記の画像が、リニューアル工事前の外装です。
上記の画像が、リニューアル工事前の内装です。
リニューアル工事後
上記の画像が、リニューアル工事後の外装です。
上記の画像が、リニューアル工事後の内装です。
5.【グループ外】観光列車の鉄道車両リニューアル工事
一万三千尺物語《あいの風とやま鉄道》
富山県を中心に展開するあいの風とやま鉄道の、観光列車「一万三千尺物語」は、あいの風とやま鉄道の413系をリニューアル工事することで導入に至りました。
車内内装について、旧国鉄車両413系の歴史的情緒と、富山独特の自然的風雅を調和させたデザイン。歴史や自然のぬくもりを感じながら、ゆったりとお食事や、車窓からの風景を楽しんでいただけます。天井、床、テーブル等に富山県産の「ひみ里山杉」を使用し、「木」と調和した落ち着いた空間に富山湾を意識した「青」をアクセントとして使用しています。
※あいの風とやま鉄道「一万三千尺物語とは」より
リニューアル工事前
上記の画像が、リニューアル工事前の外装です。
上記の画像が、リニューアル工事前の内装です。
リニューアル工事後
上記の画像が、リニューアル工事後の外装です。
上記の画像が、リニューアル工事後の内装です。
6.【SDGs】JR西日本テクノスのリニューアル工事
(1)古くなった鉄道車両の魅力を回復する取り組み
当社では、古くなった鉄道車両のリニューアル工事を請け負っています。
リニューアル工事により、古くなって魅力が薄れてしまった鉄道車両の魅力を回復することが可能です。
また、今まで紹介した事例の通り、当社が行うリニューアル工事はJR西日本以外の鉄道車両でも実施できます。
リニューアル工事では、
- キレイな空間を提供したい
- 新車への更新周期を延ばしたい
など内装・外装への様々なニーズに対応しています!
(2)SDGs12「つくる責任、つかう責任」
JR西日本グループであるJR西日本テクノスもSDGsの達成を目指しています。
鉄道車両をリニューアル工事する取り組みはSDGs目標12「つくる責任、つかう責任」を達成する取り組みでもあります。
鉄道事業者にとって、新車導入はお客様に快適な鉄道サービスを提供する上で非常に重要です。しかし、新車導入には多大な材料を消費します。
そして、これまでご紹介した当社の高い技術力があれば、新車でなくてもお客様のニーズを満足させる鉄道車両を提供できます。
持続可能な社会の実現に向けた鉄道車両のリニューアル事業に興味があれば、「こちら」からお問い合わせください!
7.まとめと今後の展望
鉄道事業者にとって、鉄道車両のリニューアル工事は、車内設備のレベルアップや、新車投入コストの抑制を図れるなど非常に重要です。
本記事では、JR西日本テクノスがJR西日本グループや他の鉄道事業者にも技術を提供し、リニューアル工事の実績を積み重ねてきた事例をご紹介しました。
特に、近江鉄道の先頭車リニューアル工事では、西武鉄道の鉄道車両をベースとして、ワンマン機器の追加や車イス・自転車スペースの追加を行うなど、JR西日本以外の鉄道車両でもリニューアル工事を実施しています。
私たちは今後も鉄道車両のリニューアル工事を通して、鉄道事業者の持つ資産を効果的に活用するお手伝いをさせていただく他、持続可能な社会の実現に向けて技術を磨いていきます。
“鉄道専用”SNS「Railil(レイリル)」から取材を受けました!
“鉄道専用”SNS「Railil(レイリル)」の記者 高杉様から取材を受けました。
取材内容については、関連資料ダウンロードのボタンを押すことで、一部読むことが可能です。
興味のある方は、ぜひRailil内で23年11月8日に公開された取材内容を読んでみてください!
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