鉄道事業者は、鉄道車両を安全で快適な状態に保つために車両基地でメンテナンスを行っています。
鉄道車両の最新技術導入に伴い、車両基地設備も更新する必要があります。
特に、本記事で紹介する白山総合車両所 敦賀支所では、豪雪地帯を走行する新幹線のメンテナンスを行うため、大型かつ高性能な融雪装置が求められます。
本記事では、JR西日本グループで鉄道車両に関する業務を担うJR西日本テクノスがプロデュースした白山総合車両所 敦賀支所の機械設備新設について紹介します。
※本記事はJR西日本テクノスが監修しています。
目次
1.はじめに
白山総合車両所 敦賀支所は、北陸新幹線の敦賀駅よりさらに、京都大阪側に位置しており、2024年3月に操業を開始しました。
敦賀支所は、新幹線車両の保守・点検・整備を行う施設として機能しています。
敦賀支所では、降雪の多いエリアに立地しているため、降雪などの悪天候でも、新幹線を安全に運行するための設備が整えられています。
2.建物の新設
今回の記事内容は、JR西日本 松浦様(左)とJR西日本テクノス 大村社員(右)に紹介していただきました。
今回の敦賀支所における、各メンテナンス設備の導入にあたっては、白山総合車両所を施工したJR西日本テクノスが、これまでの施工実績からW7系・E7系新幹線に最適なものを選定しました。
実は、敦賀支所 本所のエレベーターも当社が施工しました。
3.効率的なメンテナンスラインの構築
過去の実績からメンテナンスを最適化するための設備を選定しました。
(1)仕業検査庫
敦賀支所_仕業検査庫 敦賀支所_仕業検査庫 敦賀支所_仕業検査庫
敦賀支所は、新幹線車両の仕業検査を主に行う車両基地です。厳寒期にはまとまった雪が降り積もる地域であるため、屋根で覆われた建物が特徴です。
仕業検査庫には新幹線が3編成入庫できるようになっており、W7系・E7系の状態を高い頻度でチェックし、車両に異常が無いことを確認することができます。
仕業検査庫は敦賀駅から直接つながっており、敦賀駅までの運行を終えた新幹線車両がすぐに検査を行うことが可能です。
敦賀支所の仕業検査庫の入り口には輪重測定センサーを設置しています。
臨時修繕で台車を交換した際は、この輪重測定センサーで車輪一つにかかっている車体重量(輪重)を測定し、車体の左右重量バランスなどをチェックしています。
(2)臨時修繕庫
敦賀支所_臨時修繕庫 敦賀支所_臨時修繕庫_移動架線装置 敦賀支所_臨時修繕庫_台車抜取装置 敦賀支所_臨時修繕庫_屋根上踏板装置・先頭車ガラス交換装置 敦賀支所_臨時修繕庫
臨時修繕庫は新幹線が1編成入庫できます。車両基地の敦賀駅側に位置しており、車両基地を出入りする新幹線車両の妨げにならないようにしています。
臨時修繕庫では新幹線の突発的な不具合に対して、修理・復旧する作業を実施します。
仕業検査庫では実施できない台車の取り外しなどが実施できます。
また、臨時修繕を行う新幹線車両は、架線から電力を受けて、臨時修繕庫まで自力で走行します。
しかし、臨時修繕庫でパンタグラフの修繕などを行う場合、架線が作業の妨げになるので、移動架線装置で、架線を作業の妨げにならない位置まで架線を格納します。
(3)車両洗浄装置
敦賀支所_車両洗浄装置 敦賀支所_車両洗浄装置 敦賀支所_車両洗浄装置
敦賀支所の車両洗浄装置は、他の新幹線車両基地の車両洗浄装置とは異なり、1つの洗浄ブースで、薬液と水で洗浄する方法と水のみで洗浄する方法の2パターンで洗浄できる特殊な仕様になっています。
- 薬液と水を使用する洗浄方法
- 水のみで洗浄する方法
しかし、敦賀支所は敷地面積が小さいため、1つの洗浄ブースで2パターンの洗浄方法が行える車両洗浄装置を新たに開発しました。
4.最新機器の導入による安全性&作業性の向上
(1)作業性設備
①パンタグラフ昇降確認装置
敦賀支所に入換するW7系・E7系は編成長(1号車~12号車まで)約300mと非常に長く、3号車及び7号車にあるパンタグラフの昇降状態を確認して歩くだけでもかなりの時間を要してしまいます。
敦賀支所ではパンタグラフ昇降確認装置を導入することで、1つのモニターから、全部のパンタグラフの昇降を確認できるようになっています。
本装置のモニターを確認するだけで、新幹線の横を何度も往復する必要がなくなりました。
また、本設備を使用することで、屋根に上がらずパンタグラフのスリ板の状態も確認することができ、作業者の安全性向上効果も見込めます。
②先頭車修繕装置
新幹線車両は高速で走行するため、先頭車両は空気抵抗をなるべく小さくする特殊な形状を取っています。
そのため、運転席の前面ガラスやワイパーブレードに修繕や取替を行うには、その特殊な形状に合わせて接近する必要があります。
そこで、先頭車修繕装置を用いることで、安全に運転席の前面ガラスやワイパーブレードに接近することができます。
大きくて割れやすい前面ガラス掃除の負担を減らすために、本設備を選定しました。
特に、豪雪地帯を走行する北陸新幹線にとって、ワイパーブレードなどに関わる検査設備の重要度は大きいです。
なぜなら、豪雪地帯では、ワイパーブレードの使用回数が非常に多く、ワイパーブレードが止まると走行できなくなってしまうからです。
③床下検修車
新幹線車両に異常がないか確認するためには、新幹線車両の床下を作業者の目で確認する必要があります。
しかし、W7系・E7系の編成長は約300mであるため、台車の下をかがみながら行う検査では、作業者の負担が大きくなります。
さらに、新幹線車両の次の運用が決まっているため、検査を行う時間には限りがあります。
そのため、敦賀支所では床下検修車を配置し、作業者が座席に座りながら移動と検査を実施できます。
そのため、車両基地新設時からオペレーションを理解している当社のような会社を選択すると、作業者の負担を最大限減らす設備選定が可能です。
④温水配管設備&給水配管設備
敦賀支所_温水配管設備&給水配管設備 敦賀支所_温水配管設備&給水配管設備 敦賀支所_温水配管設備&給水配管設備 敦賀支所_温水配管設備&給水配管設備
新幹線の融雪装置の重要性を上記でも説明しましたが、W7系・E7系は編成長が300mを超えるため、雪や氷塊を限られた時間の中で取り除くには、非常に多くの温水が必要です。
併せて、車内のトイレなどに使用する水も敦賀支所で補給を行うため、大量に準備する必要があります。
そのため、大容量の温水および水の貯蓄設備を配置しています。
この量はお風呂45回分に相当し、過去の実績から常に準備する適切なお湯の量を計算し、この容量の設備を選定しました。
⑤汚物抜取装置
敦賀支所_汚物抜取装置 敦賀支所_汚物抜取装置
敦賀支所の重要な業務の一つとして、汚物タンクからの汚物抜取り作業があります。
限りある時間の中で、車内のトイレをリセットし、次の運用に備えます。北陸新幹線のトイレもタンク式となっており、敦賀支所で抜取り・洗浄を行います。
汚物タンクの上から水を投入し、投入した水の圧力で、接続したホースから汚物を抜取っていきます。
W7系、E7系の1編成12両には、合計8か所ものトイレが設置されており、各々のタンクから汚物を抜取ります。
敦賀支所には、このような汚物を受け取る汚水処理装置が設置されており、効率的に処理を行うことができます。
また、接続した汚物ホースの抜き忘れ防止のための安全装置も配置しています。
(2)安全性設備
①列車給水装置
敦賀支所_列車給水装置 敦賀支所_列車給水装置 敦賀支所_列車給水装置 敦賀支所_列車給水装置
敦賀支所では車内で使用する水の給水作業がありますが、敦賀支所に入庫中の短い時間で、各号車に給水しなければなりません。
そのため、強力なポンプを使用した給水装置を導入しています。
また、給水装置を取り付けたまま、新幹線が出庫してしまう問題を防ぐために、ホースが取り付けたままだと、各号車下のホースのランプおよび総括表示板のランプが赤く点灯するような対策を取り入れています。
※写真の場合、1号車のホースが取り付いた状態であることが分かります。
この設備を開発した背景は、過去にホースを取り付けたまま、新幹線を動かし、ホースを壊してしまったことがあったからです。
作業者の注意力に左右されず安全な検修を行うためには、ハードでの対策が不可欠です。
②屋根上踏板装置
北陸新幹線の車両の高さは、線路から約3.6mあり、作業者がデッキと屋根上の隙間などから落下すると非常に危険です。
新幹線の屋根上に上って行う作業は、パンタグラフに関係する作業が主です。
W7系・E7系(+East i)の場合、パンタグラフの位置が決まっていることから、敦賀支所では特定の位置に屋根上踏板装置を設け、安全に新幹線車両の屋根に乗り移れるよう工夫しています。
特に、隙間がないことで安全なだけでなく、安心して乗り移ることができる心理面も配慮しました。
5.地域の環境を踏まえた設備導入
汚水処理装置&排水処理装置
敦賀支所_汚水処理装置 敦賀支所_汚水処理装置 敦賀支所_排水処理装置 敦賀支所_排水処理装置
敦賀支所内で発生する汚水は、様々なものがあります。
車両洗浄装置や先頭車手洗いでの洗浄排水、車内トイレから抜き取った汚水などです。
それらをそのまま所外へ排出するわけにはいかないので、所内で害のない範囲まで浄化する設備があります。
それが排出水処理設備と、汚水処理設備です。
いずれも薬剤によりpH(水素イオン指数)の調整や凝集剤などにより浮遊物や有害物質を水と分離する設備です。
浄化できた水は水質を検査した後、希釈されて下水道へ放流しています。
汚水や汚物などから発生する臭気を回収し、大気へ拡散させない他、臭気洗浄装置により、空気からにおいの発生源を取り除く装置も配置しております。
6.まとめ
本記事では2024年3月操業開始の白山総合車両所 敦賀支所の設備について紹介させていただきました。
本記事で説明させていただいた車両基地内の設備は、すべてJR西日本テクノスが施工させていただきました。
JR西日本テクノスでは車両基地だけでなく、様々な工場の全般プロデュースの経験がありますので、工場の新設およびリニューアルを検討している際はぜひお気軽にお問い合わせください。
これからもJR西日本テクノスは、安心・安全な鉄道車両輸送を提供するために、常に最先端の技術と製品を追求しています。
★”鉄道専用”SNS「Railil(レイリル)」から取材を受けました!
“鉄道専用”SNS「Railil(レイリル)」の記者 高杉様から取材を受けRaililのコラムで近日中に掲載される予定です。
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